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Vol.1 鈴木 裕 さん (オーディオライター、FMディレクター)
| 『NS441Dについて』 うちのCDプレイヤーをNS441D化した(このサービス自体は2007年2月末日で終了)。 まずここに来るまでのいきさつを簡単に記しておこう。2006年の秋だったか金曜のイベントで、CDプレイヤーのノーマルのものとNS441D化されたものとの比較試聴をした。すごい効果があった。そして一ヵ月ほど後、再びレクストに行って、NS441D化されたCDプレイヤーからのデジタル出力を、レクストのDAコンバーター、DAC−NS1Mを通しての再生音を聴くに及んで、愕然とした(いわゆるツインNS)。その音の良さにもぶっとんだが、うちに帰ってきて自分のシステムの音を聴いた時に、まぎれもなく欠落しているものの存在に気付いてしまった。 つまり、お尻に火がついた。 |
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こんなことじゃオチオチ音楽も聴いてられねぇぜ、オーディオ・ライターの末席をアンノンと汚している場合じゃなかろう、という気持ちに至った。なにしろその効果たるや凄かったのだから。 なのでとにかくとりあえず、しばらくは使いつづけるであろう自宅のCDプレイヤーをNS441D化したのだ。3万円のCDプレイヤーでも100万円のCDプレイヤーでも料金は同じで、同じような割合の音の向上が見込めてしまうのだ。この作業を施しておけば、そのうち発売される予定のレクストの第2弾DAコンバーターを導入するという選択肢も見えてくる。いや、その時にはまた素晴らしい技術が登場しているかもしれない。とにかくこのNS化する技術料の6万円は明らかに「買い」だ。こんなおいしい話、めったにあるものではない。 |
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ここであえて裏話をしておくと、作業のためにうちのCDプレイヤーをレクストに持っていった時に、施工料金である6万円を茶封筒に入れていっしょに手渡した。その時に施工後の再生音のことなどをウェブサイト用に書いてもらえないかという依頼を受け、書いているのがこの文章だ。もちろんギャラは発生しているがちょっと文章量を書きすぎると一番安いオーディオ雑誌よりも単価が落ちてしまうくらいの金額だ。まあ、好きなことを書いていいというので了承したのだ。 しかし実は仕事を受けてから「しまった」と思った。というのもNS441D化された再生音というのが実に書きにくい種類の音なのだ。ま、だかこそレクストの西野さんも僕に依頼しているわけだが。開発者としてうまく書けないので、なんとかしてほしい、というオーダーだ。ストレートに書くと美辞麗句を並べたような賛辞になってしまう。マスターに肉薄した音というのも知らない人にはそのニュアンスは伝わっていないだろう。どうしようかと考えているうちに、一ヵ月が経ってしまった。 |
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たとえばあなたがレコーディング・スタジオに行ったとする。スタッフというわけではなくて、たまたま友人の知り合いがミュージシャンで、レコーディングの後に食事をしようと予定していたら、案の定スタジオ・ワークが伸びてしまった。仕方ないので待ち合わせ場所からほど近いスタジオに登場することになった。 そんなシチュエイションだ。 行ってみるとちょうど休憩の時間だ。あなたはなぜかたまたま、今、まさにレコーディング作業をしているミュージシャンたちによるかつての演奏のCDを持っている。不自然のような気もするが『ダイ・ハード』のように、起こりにくい現実は日々発生しているのだ。で、なにしろそのCDをスタジオで聴かせてほしい、なんてお願いしてみる。あなたにとってはよく聴き慣れたCDであり、オーディオ的にそのスタジオがどんな音を持っているかわかるというわけだ。 |
聴く。納得する。 なるほどねぇ。こういう低音の音圧なんだとか、コンプレッションドライバーのリニアリティって、やっぱ凄いぜ、なんてね。 そして休憩時間が終わる。 「じゃあ、もう1曲。1テイクか2テイクでサクっとやって飲みにいこうぜ、お客さんも待ってるしな」といったような言葉を残してミュージシャンたちはブースの中に入っていく。そして演奏が始まる。 その瞬間、モニタースピーカーからは先程の、かつての録音のCDを再生した時とは別モノの音楽が鳴りだすのだ。瑞々しく勢いがあり、エネルギッシュでしなやかな、克明で緻密ながら細部にとらわれない、我慢しようとしても腰が動いてしまうような、ビューティフルな演奏だ。低域のゆるさも高域の微妙な歪みっぽさも微塵もない。そんな音による、生き生きとした音楽を耳にすることになる。その時にわかるのは「録音されてない」ことの凄さだ。聴いているのはマイクで拾って、アンプで増幅してスピーカーが鳴っている音だ。しかし録音メディアを通っていないということのダイレクト感と言うか、生々しさというか、そういう特有の"何か"。 その"何か"をCDという旧態依然とした20世紀の技術、bit数も少なければロートルでスペックが低すぎてもうダメだと散々言われつづけて来たCDから感じさせてくれるのが、NS441D(特にツインNS)の音である。 |
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| 瑞々しく勢いがあり エネルギッシュでしなやかな 克明で緻密 細部にとらわれない 我慢しようとしても腰が動いてしまう ビューティフルな演奏のノリがある 低域のゆるさも高域の歪みっぽさもない そんな、音である。 書いていて美辞麗句を羅列したような紋切り口調で、今更ながらの表現で恐縮だが、ほんとに嘘いつわりなく、そういう音なのである。もっと気の効いたことも書きたいのだが仕方がない。 |
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試聴会で、僕よりすこし先輩の方が、 1 ノーマルCDプレイヤー 2 NS化された同じCDプレイヤー 3 そのCDプレイヤーからのデジタル出力をレクストDACを通す(ツインNS) と、段階を踏んでご自分の持ってきたソフトを聴いていって、ツインNSの音でまるっきり10分くらいの演奏を聴きおわった時に号泣していたのを僕は忘れられない。聴いている最中には、僕は失礼な男なので「いやはやいい音だけどこの曲を完奏するのは、ちょっと長すぎじゃないかな」なんて心の中では思ったけれど、その人が「こんないい音で聴けるとは」と言いながら号泣されているのを見て僕も思わずもらい泣きしそうになった。感動したその男性に、僕も感動した。いい音は人生を変えるとは以前から思っているけれど、これでこの人のライフ・ステージは次の段階に昇るのだと思った。 いささか長くなったが、 マスターの音というのは、つまりそういう感じのことだ。CDを聴いているのに、その壁の向こうにブースがあって、ミュージシャンやオーケスラが演奏しているのをモニターしているような、そんな生命感を感じさせるような音。あるいは単なる再生音ではなく、人生を変えてしまうような表現。 |
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もうひとつ具体的なことを書いておこう。うちのCDプレイヤーのNS化が完了してレクストに引取りに行った時のことだ。金曜日だったので結局イベントの終わりまでいてしまったのだが、その前に音を確認した。CDソフトは持っていなかったので、そこらにあるものを使った。たしかジャズとオーケストラだ。 うちのCDプレイヤーはデノンのDCD−S1という元々50万円の製品を、オーディオ・ショップのイケオンで50万円かけて改造してあるものだ。それをこんどは6万円かけてNS化した。その音そのものと、そこからのデジタル信号をDAC−NS1Mを通した音との比較をした。つまり、まるまるDAコンバーター部を50万円かけて改造したものと、28万円のDACの勝負ということになる。 |
できるだけ正確に把握したかった。 なのでひとつのソフトにつき、単体の音、DACの音というのを3回ぐらいづつ切り換えながな克明にその差を把握した。仕事だったらこんなにちゃんと試聴しないかも(笑)。 残念ながら、DACを通した方がいい。ほんとうにナチュラルな音なのだ。デジタル写真で言えば、700万ピクセルと、1200万ピクセルの違いくらい、その差はある。CDプレイヤー単体の音では画素数が少ない分、別の要素、つまり強力なアナログ出力部によって馬力のある再生をしている。ちなみにイケオンの名誉のために言っておけば、こちらのショップ・チューニングも僕が使っている仕様からすでに何バージョンも進化しているので、それを持ってくればDAC−NS1Mの音のレベルとの勝負はわからない。しかしこの仕様で聴く限り、やはりレクストのDACを通した音の方がいい。 トランスポートとしてのDCD−S1が優秀だからという意見もあるがそれは慰めにはならないだろう。 ま、いいさ。 デノン/DCD−S1イケオンスペシャルS102バージョン with レクストNS441D。スバル/インプレッサの限定車の名前のようで異常に名前が長いのが玉にキズだが、ここはひとまずこれで満足しておこう。まだ次はあるのだ。なにより、今、うちで音楽を聴くのが楽しい。 NS441D技術、おそるべしである。 |
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| 鈴木 裕(すずき・ゆたか) さん ラジオディレクター/ライター。
ディレクターとしてJFN系 『南こうせつの週末はログハウスで』を担当する一方、 『オートサウンド』、『ステレオ』、『オーディオアクセサリー』各誌でライターとして活躍中。 得意分野は、音楽、オートバイ、クルマ、オーディオ、カーオーディオ、CDソフトと、多岐にわたる。 |