『DAC-NS1Sは、フルスロットルで心を直撃。今までのCDソフト再生は、遥か後方で影も見えず。音楽再現の未来がそこに。』
...その音は、突然やってきました。
以前より、DAC-NS1Sの音量の小ささは気になっていたところです。普通のCDプレーヤーに比べて、約2dBほど小さい。アンプのボリュームで1クリック程度の違いです。しかし、音質や特性を優先させると、RCA出力はディスクリート設計のため、あまり自由度は高くありません。何度かチャレンジしましたが良い結果は出ず、「アンプのボリュームを1クリック上げれば済むこと」と納得していましたし、お客様にもそう説明してきました。
5月のオーディオ・フェアへの出展が決まり、ヘッドホンでDACのデモを行うことに。そうなると、アンプのセレクターでDACとプレーヤーを切り替えて試聴するのが定石です。いちいち、「DACを聴く時は、1クリック上げてください。」というのも、イベント会場の煩雑さでは無理があろうと思われます。
NS1Sの設計陣と相談した結果、一般プレーヤーとゲインをそろえる改造を、1台だけ施すことにしました。今回のトライアルでは、ゲイン上昇がチューニング的にスイートスポットに来るよう、アップさせるdBをレクストで細かく指定。その無理難題に対し、NS1S設計陣が特性を落とさぬよう知恵をしぼってくれました。
無事ゲインアップの改造から戻ってきたDAC-NS1S。NS1S最大の魅力である、あのハッとするほどの楽器の再現、360度パノラマのように広い音場が少しでも失われるようならば、私の判断でゲインアップは諦めるつもりでした。
出てきた音は、一瞬では判断がつかぬほど、感触が違っています。部品を変えたのですから、そのエージングが必要なのでしょう。多少音質の暴れがありますが、決定的に今までのNS1Sとは違うサウンドが目の前にありました。
「ゲインがアップしたのだから、アンプの音量を下げ目にしなくては。」と、興奮する自分自身に言い聞かせて試聴を続けますが、ボリュームを小さくしても音が目の前まで飛び出してくるではありませんか。手を伸ばせば、すぐそこに触れることができそうな音像。かといって乱暴な音ではなく、スッと心を包み込むような優しい肌触り。
アンプのセレクターでプレーヤーとDACを切り替えても、誰でも分かるほど圧倒的にDACが素晴らしい。というより、プレーヤーが一般機であろうと、こともあろうかNS441D化機であろうと、DACと比べると貧弱で可哀想に思えるほど音楽の生気が違います。ハンデをつけて、DAC側の音量を2dBほど小さくしても、結果は変わりません。
慌てて「どこを改造したのか?」と問い合わせました。実は、設計陣のほうでも「想定していませんでしたが、音が太くなったように感じています。」という試聴結果が出ていたようです。DAC-NS1Sのブロック図を見てください。

変更したのは、下図のI-V回路の抵抗を数本だそうです。

今までDAC-NS1Sは、より高みを目指すため、何度かバージョンアップを行いました。ご購入いただいたお客様には送り返していただく作業でご迷惑をおかけしてましたが、良い結果が出たからには黙っていられない性分です。それらは、電気的改造を行わない、レクストのチューニング技術の進化でした。抵抗の定数変更という電気回路へ手を付けたのは、今回が初の試みです。
蛇口のハンドルを回しても、一向に水流が増えない。なんと、流しの下に元栓があり、そこが若干閉まっていた。元栓を全開にすると、あふれんばかりの勢いで流れ出すジェット水流。まさにそんな印象のサウンドです。
面白いことに、今回のゲイン変更後もレクスト側のチューニングは一切変更がありません。今まで水流が弱まっていた中で、勢いを増す研究をしてきたわけですから、それはそのままプラス方向の結果となって働いています。
単にマッシブな音質になったのではありません。息を呑むほどの美しさと、圧倒的余裕のパワー。音の濃さと繊細さ。この相反するサウンドが奇跡的に融合したのが、新しく生まれ変わったNS1Sです。予告なき変更でごまかすには、あまりに大きい変化量。『公開する予告なき変更』として、全てのNS1Sユーザー様に無償バージョンアップで還元させていただきます。
お客様より素敵なネーミングを頂戴しました。“NS1Sフルスロットル”。まさに、そのサウンドのイメージ通りです。同じソフトを再生しても、薄味なCDサウンドの面影は全くなく、未踏の骨太サウンドが展開します。もはや44.1kマスターというよりは、96kマスターの印象に近いように感じます。
この音がオーディオ雑誌取材のときに出ていればと悔やまれますが、これもまた運命でしょう(笑)。まぐれでも偶然でもかまいません。レクストは、フルスロットル・サウンドを手に入れました。これから圧倒的に飛ばしていきます!