第4話 どこに置くか

スピーカーをどこに置くかで悩まれる方が多いと思います。オーディオの教科書には、部屋の短辺が良いとか、長辺が良いとか、コーナーを背にするのが良いとか、情報は様々です。スピーカーの間隔も、公式のようなものが発表されていますが、果たして自分の部屋にその基準が当てはまるかどうか。

実は、すごく簡単にスピーカーの設置場所を決める方法があります。それは、スピーカーをミュージシャンだと想像するのです。自分の部屋に、ギタリストでも歌手でもかまいません。2人のミュージシャンを迎え入れて演奏を行ってもらうと仮定してみてください。

歌手を極端に壁際に立たせる人はいないと思います。また、極端に近い距離や、部屋のコーナーを利用したりもしないのではないでしょうか。扉や窓・通路といった動線や、聴き手の座り位置などを考慮すると、自然に決まってくるものです。

オーディオ・マニアを悩ませるスピーカー同士の間隔も、2人のミュージシャンの距離を考えると見えてきます。部屋の両端に遠く離れて歌うデュオはいないと思います。漫才のように、すぐ隣に立つのもおかしいです。アイコンタクトがとれるくらいの、お互いのハーモニーが確認し合えるほどの距離が理想となるでしょう。

スピーカーは、演奏者と同じです。歌手が気分よく歌える場所こそ、スピーカーが美しく鳴る場所です。そう考えると、ご自身のお部屋に、そういくつも候補がないのが分かると思います。部屋にあるステージは、意外とひとつなのです。そこで、伸び伸びとスピーカーを歌わせてあげてみてください。


第3話 どこで聴くか

オーディオ専用の防音室、レコーディング・スタジオのような空間、大きな音が出せる地下室。そういった環境に憧れる方は多いのではないでしょうか。実は、これらの場所は、良い音にするのが非常に難しい部屋だと言えます。

防音・遮音を行うということは、外からの音が入ってこないのは良いのですが、部屋の中で発生した音の逃げ場もないということになります。逃げ場を失った音楽は、響きとなって部屋に充満し、徐々に減衰していきます。トンネルや地下駐車場、お風呂場などを想像してみてください。お風呂での鼻歌は気分の良いものですが、オーディオソフトに入っている音楽はヘッドホンで聴いてもちょうど良い響きであることから分かるように、それ以上不要なエコーをつけると音楽が濁ってしまう場合があるのです。

私は、このことで2回失敗しています。一度目は、オーディオの仕事を始める前、自宅にピアノ室を作った時。少しでもピアノの防音をと思い、壁の石膏ボードを二重貼りにしてもらいました。低予算で、壁の厚さが少しでも増せばと考えたのです。結果は、気になる石膏ボードの響きのある部屋となってしまいました。教会の美しい響きのようなら良かったのですが・・・。

二度目は失敗とは言えないのですが、東京移転の際に地下室に本拠地を構えたこと。そのころは自分達の音響調整力にかなりの自信がありましたので、迷わず地下を選びました。しかし、その響きを完全に掌握するのに2年かかりました。結果的に調整は可能でしたが、困難であったことは事実です。

部屋の遮音性能を高めると、静かになるという大きなメリットはあります。しかし、スピーカーから出る音を不要に響かせずに減衰させねばなりませんので、吸音材や音響パネルなどを導入していくことになります。音を吸うというのは難しく、音楽に必要な音まで吸ってしまう危険性もあるわけです。一度失った音楽は、もう元には戻せません。

弊社では、今ではスタジオの音響チューニングを仕事として行ったりしますが、一番やりやすいのは普通の部屋です。ガラスなどの2重サッシはお薦めです。しかし、壁などは意外と普通のほうが、音楽がまとめやすいと思います。

ご家庭のオーディオを考える場合、一番適しているのはリビングです。会話が普通にできる部屋こそ、スピーカーから流れる音楽も一番普通に聴こえるものです。防音・遮音室やスタジオというのは、ある意味異常な音響空間なのです。普段生活しておられる空間に自然に溶け込む音楽は、より心に届きやすいと思っています。

迫力ある大音量に憧れがあるかもしれません。私は地下室でそういう環境にありますが、大音量テストの時以外は、そんな大きな音で聴くことはまずありません。部屋の大きさとスピーカーとの距離などから、自然に適音量は決まってくるものです。必要以上に音量を上げたいということは、実はセッティングの不備などの別の原因があるものです。音が決まってくると、音量を下げていっても気持ちよく聴けるようになります。

普通の部屋で、適音量で聴く。これが良い音への一番の近道なのかもしれません。


第2話 何を聴くか

「好きな音楽を、少しでも良い音で。」そう思って始めたオーディオなのに、いつの間にかオーディオ誌に掲載される優秀録音ソフトばかりを聴いている。そんな経験はないでしょうか。私は一時期、本当に好きな音楽ではなく、優秀録音と呼ばれているソフトでオーディオ機器をチェックする日々を過ごしていました。そこから解き放たれたのは、実はつい最近のことです。

オーディオ誌に、クラシックやジャズを中心にした記事が多いのは、オーディオ評論家さんやオーディオファンの方に、そのジャンルが好きな方が多いからという理由だけです。 オーディオ機器の購入を考えるときは、ぜひご自身の好きなジャンルの音楽で試聴してみてください。優秀録音ソフトでないと恥ずかしいなんてことはありません。好きな音楽が上手く鳴らせてこそ、オーディオ機器は存在価値があります。

音楽の趣味は人それぞれ。オーディオが、『音楽と心が共鳴し、感動すること。』ならば、どんな音楽を聴いたって問題ありません。私はシステムのチェックを行うソフトに、好きな音楽を必ず入れるようにしています。より感動を得られるかどうかが、何よりの音質確認になるからです。

「日本のポップスのCDは、音が悪いから。」というのは、機器メーカーや販売店側の言い訳だと思います。私も2年前までは、そのような発言をしてきました。今では大いに反省しております。この第2話の「何を聴くか」というテーマに実は意味はなく、「好きな音楽なら何でも良い」が答えです。

とはいえ、優秀録音と呼ばれているソフトには、名演・名盤が多くあります。音楽の幅を広げるという意味で、今は興味がなくとも、将来的にはオーディオの喜びの一環として、ぜひ聴いてみてください。


第1話 オーディオとは

『音楽と心が共鳴し、感動すること。』

これが、オーディオだと私は考えます。高額なオーディオ機器を揃えようとも、そこに感動が得られなければオーディオではありません。携帯プレーヤーやパソコンから流れる音楽でも、そこに心を開いて聴き始めれば、それはオーディオです。

オーディオは、音楽〜機器〜心という連携で、感動という結果を導き出す“伝言ゲーム”のようなものと例えると、分かりやすいでしょうか。オーディオをこのように考えると、音を良くする方法は3つあることに気付きます。

ひとつは、始まりである音楽の送り出しを強くすることです。名演と言われている音楽との出会いや、巨匠ミュージシャンの奏でる音色などが、これに相当します。音楽のエネルギーが強ければ、心へ届くことは容易となり、感動が生まれます。

ひとつは、オーディオ機器のクオリティーです。音楽の伝言ゲームで重要な役割をするのが、中継役のオーディオ機器です。ここが間違った伝え方をすれば、感動という回答を導き出すのが難しくなります。オーディオ機器をグレードアップすると、この伝達能力がアップしますので、今までよりも感動が得られるようになったりするのは、このためです。

ひとつは、心のアンテナです。心のアンテナを高く、そして受信しやすいように常にピカピカにしておけば、音楽が心に伝わりやすくなります。機器が多少誤った音楽情報を伝えてきても、心の受信精度が高ければ、十分に補正が可能です。

オーディオというと、ついつい2番目の“オーディオ機器のクオリティー”ばかりに気を取られます。とても大切なことですが、それが全てではありません。

多くのミュージシャンやエンジニアさんは、3番目の“心のアンテナ”の達人です。最高の条件でレコーディングできるとは限りません。劣悪な環境の中で素晴らしい音楽を生み出すのは、心のアンテナで音楽をキャッチする能力に長けているいからではないでしょうか。

良い音楽との出会い。そして心のアンテナを磨くこと。機器を買わずとも、オーディオの音を良くする方法は、こんなところにもあるのです。


まえがき

オーディオを仕事にして、10年になります。最近のトピックスとしましては、学生時代からのフェイバリット・ベーシストであるアンソニー・ジャクソン氏のケーブルを、全て任されたことです。世界最高峰のミュージシャンとの仕事は、それはそれは刺激的であり、巨匠から「このケーブルと出会えて、とてもうれしいよ。」とご感想をいただけるとは、10年前には想像すらしていませんでした。

素晴らしいミュージシャンやエンジニア、そしてオーディオの先人の皆様との出会いから、様々な学びが得られた10年。この蓄積を、自分だけのものとすることはできません。これからは、できるだけ公開していこうと考えました。

「このことを先に知っていたら、こんなに遠回りしなくてもよかったのに。」と、学びのたびにそう思うことは日常茶飯事。この連載が、皆様にとっての“オーディオの近道”の発見に少しでも役立てば嬉しく思います。

商品の紹介といったことはできるだけ避け、自身が学んできたことを中心に書いていく予定です。初めてオーディオに触れる方はもちろん、ベテランの皆様の再発見となるようなテーマも時には登場するかもしれません。

タイトルは『オーディオ入門』ですが、自身の知識自慢でもなければ、従来の教科書の羅列でもない、体験から得たことを書いていくつもりです。5年後、10年後の自分が読んだら、また新しい発見があるかもしれません。この連載そのものが、私の“学び”の場なのです。よろしければお付き合いください。どうぞよろしくお願いいたします。

2008年2月26日

株式会社 レクスト
代表取締役  西野 正和
 

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